コレステロールと中性脂肪は、同じ血中にある脂質の仲間です。
同じもののように思われがちですが、体の中での働きも、数値が高くなる原因も違います。
コレステロールは細胞膜や胆汁酸の原料になります。中性脂肪は主に体のエネルギー源として使われています。
働きだけでも違うこの2つの脂質について、それぞれの役割、上がる原因、下げる方法、リスクなどをそれぞれについて栄養士が説明します。
この記事の目次
コレステロールと中性脂肪の正常値・異常値
コレステロールと中性脂肪の正常範囲は、日本動脈硬化学会より示されています。
- LDLコレステロール 60~119mg/dl
- HDLコレステロール 40~119mg/dl
- 中性脂肪 30~149mg/dl
この範囲を外れてしまうと、異常値として食生活や運動の改善を指導されたり、薬物療法などが始まります。
食習慣を中心とした生活習慣の乱れがあると、LDLコレステロールと中性脂肪は高値になりやすく、HDLコレステロールは低値になりやすい傾向があります。
この血中脂質のバランスが崩れた状態になると「脂質異常症」という疾患になります。
▶コレステロールに関する病気
脂質異常症はLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪値が高く、下げる必要があることがほとんどです。しかし中にはHDL(善玉)コレステロールが低く、高める必要がある場合もあります。
これらの数値は前日の食事などの影響を受けやすく、検診の前日に暴飲暴食をすると、LDLコレステロールが少しだけ高かったということもあります。
また、これらの数値は、高値であっても自覚症状(痛い、かゆい、気分が悪いなど)がほとんど出ないので、検診で調べたら「中性脂肪が正常値を超えていた!」ということもあります。
コレステロールと中性脂肪が体内で果たしている役割の違い
コレステロールの役割
コレステロールは、体内で細胞膜の一部になります。
さらに、胆汁酸という消化酵素の原料にもなります。
悪者の代表のように思われがちなコレステロールですが、体の維持には重要な役割を担っているのです。
中性脂肪の役割
中性脂肪は体のエネルギー源になります。
中性脂肪は別名「トリグリセリド」といい、グリセロールと3つの脂肪酸から成り立っています。
どちらもエネルギーを生み出すのですが、特に脂肪酸が大きなエネルギーを生み出し、体を動かしています。
コレステロールと中性脂肪が上がる原因の違い
コレステロールと中性脂肪は、それぞれ別の原因で上がります。
1つずつ見ていきましょう。
コレステロールが上がる原因
血中コレステロールは、食べ物から摂るコレステロールが3割程と、肝臓で作られるコレステロールが7割程で構成されています。
食べ物から摂る食事性コレステロールが多すぎると、血中コレステロールが上がってしまいます。
鶏卵、魚卵、うなぎ、レバーなどにコレステロールが多く含まれています。
コレステロールを多少摂ったとしても、体は通常であれば肝臓でつくるコレステロールを減らして、多過ぎにならないように調整していますが、卵を毎日10個も食べるような極端な習慣はいけません。
肝臓で作られるコレステロールは、材料となる飽和脂肪酸の多い食品を多く摂るとたくさん作られてしまうので、血中コレステロールが上がってしまいます。
飽和脂肪酸の多い食品は、肉の脂、乳製品、菓子類(洋菓子)などです。
さらに、大きなストレスが常にある場合や、アルコールの飲み過ぎなどでも、血中コレステロールは上がります。
女性の場合、閉経でホルモンバランスが崩れて上がることがあります。
▶女性ホルモン・エストロゲンが減少する更年期・閉経後の女性がコレステロール要注意の理由と対策
中性脂肪が上がる原因
中性脂肪という名前から、脂肪を多く摂ると上がってしまうと思いがちです。
しかし、中性脂肪が上がる原因は、炭水化物(糖質)の摂りすぎであることが多いです。
ご飯をおかずにご飯を食べられるくらいにご飯が大好きな場合や、うどんとおにぎりなどの主食の重ね食べ、ジュースやお菓子やパンなどの糖分の多いおやつを頻繁に食べる場合などに、中性脂肪が上がります。
さらに、アルコールの摂り過ぎでも中性脂肪は上がります。
アルコールは肝臓で分解されます。しかし肝臓は糖質の代謝も行うため、アルコールの分解でリソースを割かれると糖質が消費されず中性脂肪になりやすくなります。
結果、血中中性脂肪が高い状態になってしまいます。
コレステロールと中性脂肪を下げる方法の違い
コレステロールを下げる方法
コレステロール(悪玉)を下げるには、血中コレステロールを上げる食品を控えることが第一です。
血中コレステロールを上げる食品全部を食べ過ぎている人はあまりいませんので、自分が思い当たる食べ過ぎている食品を見つけ、その食品の摂取を控えることが、食事療法を長続きさせるポイントです。
さらに、コレステロールの吸収を減らす食品を積極的に摂ってください。
大豆製品(豆腐、納豆、油揚げなど)や青魚、食物繊維の多い野菜は、食事からのコレステロールの吸収を減らす働きをします。
加えて、これらを多く食べる食事をすると自然に、中性脂肪やコレステロールを上げやすい飽和脂肪酸の多い肉類を摂る量や回数が減るので、二重の面で効果的です。
中性脂肪を下げる方法
中性脂肪を下げるためには、中性脂肪を上げる食品、つまり糖分の摂取を控えてください。
そしてアルコールを控えることが大事です。
しかし、お米やパンなどの糖質は主食ですので、毎日摂りたい栄養素です。
短期間だけ糖質を摂らない食事をすることは可能でしょうけれど、糖質を全く食べない食事をずっと続けることは、日本人の食生活では無理があります。
そこで、主食の重ね食べ(ごはん+うどんなど)をしないことや、ご飯茶碗を小さくしてお米の摂取量を減らす、しっかりおかずを食べること、飲み物をジュースからお茶にすることなど、毎日行っている習慣を変えることが中性脂肪を下げる近道です。
コレステロールと中性脂肪が高いままだとどうなる?リスクは共通の「動脈硬化」
コレステロールも中性脂肪も、血液中の濃度が高くなると血管壁を傷つける原因となります。血管壁が傷つくと、プラークが発生します。
すると、血管の壁が厚くなる上に、弾力もなくなってしまいます。
そのような血管の状態を「動脈硬化」といい、コレステロールと中性脂肪両方に共通するリスクです。
動脈硬化を起こした血管は、血液が通る穴が小さくなりますので、血流が滞ったり、完全に詰まってしまったりします。
こうなると、血液が流れないので、血管の先にある細胞が機能しなくなり、脳梗塞や心筋梗塞などの大きな病気になるのです。
さらに、動脈硬化を起こした血管は、弾力がなくなって破れやすくなります。
破れて出血を起こすと、これも脳出血などの大きな病気になります。
不快な自覚症状が出ないため、対策を後回しにしがちなコレステロール・中性脂肪ですが、上記のような命にかかわる病気を予防するために、日頃から小さな注意の積み重ねをしていきましょう。
まとめ
- コレステロールは生命維持、中性脂肪はエネルギー源として主に使われます。
- コレステロールは卵や飽和脂肪酸、中性脂肪は糖質の摂り過ぎが原因で上がります。
- コレステロールは食物繊維や大豆製品を摂り、中性脂肪はアルコールを控えることなどが数値を下げる手助けになります。
- 血中のコレステロールや中性脂肪のバランスが崩れると、血管の動脈硬化を進める原因となります。
共に脳疾患や心疾患などの大きな病気の引き金になりますので、早めの対策を小さなものからでも、今日から始めていきましょう。
フリーランスの麻酔科医として複数の病院で勤務。生活習慣病アドバイザー、麻酔科標榜医、麻酔科認定医、日本麻酔科学会会員、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員。
医師として生活の質を上げ、楽しく健やかな毎日を過ごして頂くため「健康」に関する執筆も行っています。